【お産の進み方】どんな姿勢が出産を促す?‐回旋異常、胎児機能不全

産婦の姿勢がお産に影響

「立位または歩行や動くこと」と「横になることや仰臥位」との比較において、「立位または歩行や動くこと」の方が分娩第 1期(子宮口が全開大=10㎝開くまで)の時間が 1 時間 22 分短いという結果が示されています※1

とはいえ、当日にどんな姿勢を取れるのかイメージがつかない方も多いのではないでしょうか?

本記事では、赤ちゃんが骨盤の中を回って出てくることをサポートしてくれる姿勢をお伝えします。

赤ちゃんが骨盤の中を上手に降りて来れないと、微弱陣痛や遷延分娩、帝王切開の原因になってしまいます。

帝王切開の原因

  • 児頭骨盤不均衡(児頭が骨盤を通れない:母体の低身長、巨大児)
  • 子宮破裂(前回帝王切開や婦人科手術歴、陣痛促進剤使用など)
  • 微弱陣痛(双子妊娠、子宮筋腫、子宮奇形、軟産道強靭、児頭骨盤不均衡、胎位異常、遷延分娩、巨大児、全身衰弱、恐怖心、膀胱の充満など)
  • 分娩停止
  • 胎位・胎勢異常、回旋異常 胎児機能不全(臍帯圧迫、母体低酸素、常位胎盤早期剝離、妊娠高血圧症候群、胎盤機能不全、感染など)

この中で産婦さんが意識することでリスクを減らせるものがあります。

回旋異常、微弱陣痛、胎児機能不全 このうち今回は回旋異常と胎児機能不全について説明します。

回旋異常

こちらにも簡単に載せた通り、胎児は骨盤の中を回転しながら降りてきます。

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イラストは全て自作ですので転用転載はしないでください。

このうちの、右の2つの段階(第2回旋=横向きだった赤ちゃんが、母体の背中側を向くように回転する)がうまくいかない状態を回旋異常と言います。

この回転がうまくいかないリスクを減らす方法として、赤ちゃんが動ける空間を作ってあげましょう。

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産婦さんが仰向けに寝ている時はこのようなイメージになります。赤ちゃんは手足側がある前側よりも背中の方が重いため、重力によって赤ちゃんの背中側が産婦さんの背中側に来やすくなります。

これは本来赤ちゃんが回りたい方向と逆になってしまうのです。

このように正しい方向に回れないと、骨盤の中に侵入することが難しくなってしまいます。

回旋異常予防

これを予防するのは簡単です!産婦さんが仰臥位と逆の姿勢を取れば良いのです。

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お腹を下に向けることによって、赤ちゃんの背中が母体のお腹側に来ることを重力も一緒に手伝ってくれます。更に、子宮の空間を背骨などに邪魔されずに十分に広げてあげることが出来ます。

仰向けのデメリット

仰向けで長時間寝ていると、子宮によって血管が圧迫されてしまい「仰臥位低血圧症候群」を起こすことがあります。顔面が蒼白になり、気が遠くなるように感じる症状が出て徐脈が起こり大変危険です。

横になる際には横向きの姿勢を取るようにしましょう。

さて、お腹を下にした体位はどんなものがあるでしょうか?

姿勢の例

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このように四つ這いになったり、バランスボールやクッションを用いてお腹を下にした姿勢を取ることが出来ます。シンプルな四つ這いでは手や足に負担がかかって、疲れてしまいますので、グッズを用いる事をお勧めします。

バランスボールがない場合には、折り畳んで分厚くした布団でも構いませんし、床に座れる状態であれば、椅子にもたれかかる方法もあります。ボールによりかかったり、腰を下ろしたり、陣痛の発作に合わせてリラックスできるように工夫してみてください。

寝る際には横向きが効果的です。クッションを挟んだりして、リラックスできる姿勢を取りましょう。

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しゃがんだ姿勢や立ったり歩いたりすることも、骨盤を動かして骨盤を広げる事に役立ちます。重力によって、赤ちゃんが骨盤の中に入りやすくすることを助けます。

ポイント

仰向けで横になっている時間を減らし、歩いたり座ったり、四つ這いなど様々な姿勢を試してみることで、赤ちゃんが回ったり、骨盤に降りてくることの助けになります。

赤ちゃんが上手に降りてこれないと、子宮口を刺激することが出来ないと、陣痛が弱くなりやすいため、微弱陣痛になりやすいです。

胎児機能不全

胎児機能不全とは、「妊娠中あるいは分娩中に胎児の状態を評価する臨床検査において“正常でない所見”が存在し、胎児の健康に問題がある。あるいは将来問題が生じるかもしれないと判断された場合」と定義されています※2

“臨床検査において正常でない所見”とは難しい表現ですが、お腹に付けるモニターで赤ちゃんの心拍から苦しいサインが確認されたり、羊水が濁っていたり、羊水の量や産婦さんの合併症、年齢、妊娠週数などを合わせて考えられます。

胎児機能不全は様々な病状があり得ますが、この中で最も重大なのは、胎児の低酸素です。

胎児機能不全とは、簡単に言うと「十分な酸素が届かず赤ちゃんが苦しい状態」というイメージが分かりやすいかと思います。

低酸素では、各臓器に酸素を充分に送ることが出来ないため、一部の臓器に送られる酸素は減らされてしまいます。更に酸素が足りない状態が続くと、脳のも酸素が行かず(低酸素性虚血性脳病変)、臓器障害だけではなく、胎児死亡が起こることもある恐ろしいものです。

胎児機能不全の原因

胎児機能不全は、妊娠中から胎盤の状態が悪くなっていたり、子宮の血液の流れが悪くなってしまっていて長く起こっているものと、分娩の時に急に発症するものがあります。

妊娠中からの原因
  • 前置胎盤(胎盤が正常より低い位置で子宮壁に付着し、子宮口の一部や全部を覆うもの)
  • 常位胎盤早期剝離(胎児がまれる前に子宮壁から胎盤が剥離したもの)
  • 過期妊娠(42週以上の妊娠)
  • 多胎妊娠(複数の胎児が存在するもの)
  • 妊娠高血圧症候群(こちらをご覧ください)
  • 重度の貧血
  • 糖尿病合併妊娠、心疾患合併妊娠
分娩時の原因
  • 臍帯脱出(破水後に臍帯が胎児よりも先に膣内へはみ出したもの)
  • 臍帯巻絡(臍帯が胎児の一部に絡まったもの)
  • 母体低酸素
  • 母体低血圧
  • 過強陣痛(陣痛が強くなり過ぎたもの)
  • 子宮貼破裂

などが挙げられています。

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胎児機能不全の予防

胎児機能不全が疑われた場合にどのような対応がされるでしょうか。

まず、胎児に酸素が十分に送られるようにします。そのための方法としては、体位変換を行ったり、産婦さんに酸素投与が行われたり、子宮収縮薬の使用時にはその量を調整したりします。

それでも改善が見られない場合には、赤ちゃんが下まで降りてきていれば吸引・鉗子分娩が行われます。まだ赤ちゃんが降りて来れていない際には、帝王切開になります。

さて、すべてを予防することはできませんが、産婦さんにできる事はあるでしょうか。

回旋異常でも説明した通り、仰臥位を続けていると産婦さんの血管が子宮で潰されてしまい、血流が悪化していしまいます。横になる際には横向きの姿勢を多く取りましょう

また、お産が進んできたり、破水の後は特に臍帯が一時的に圧迫されるだけでも、赤ちゃんは苦しくなることがあるので、動いて体勢を変えることや子宮内の空間を充分に保つ姿勢を取ると解消できる可能性があります。

赤ちゃんに十分な酸素を届けるためには、産婦さんが落ち着いてリラックスした呼吸を続けることが出来ることがとても重要です。

呼吸の仕方についてはこちらの記事を参照してください。

原因は分娩時だけではなく、妊娠中も影響を与えるため、妊娠中の高血圧や糖尿病、貧血による血流の悪化を防ぐために、妊娠中の生活を注意することも重要です。

※1:Lawrence A, Lewis L, Hofmeyr GJ, Styles C. Maternal positions and mobility during first stage labour.Cochrane Database of Systematic Reviews 2013, Issue 10. Art. No.: CD003934. DOI:10.1002/14651858.CD003934.pub4.

※2:岡庭豊(2015),病気が見えるVol.10 産科第3版,メディックメディア